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「ジプシーに会ってみたい」
映画でジプシーを知ったわたしは、今でもジプシーの伝統や古い習慣が残っている
東欧ルーマニアへと旅立った。
映画に出てきたクレジャニ村へ行けば、ジプシーに会える。
ただそう信じて単身乗り込んだ。

何とかクレジャニ村に着いたものの、右も左も分からず立ち尽くしていたわたしに、
通りかかった一人少女がにっこり微笑んだ。

映画で見た世界的に有名なジプシーバンド、
タラフ・ドゥ・ハイドゥークス」のメンバーの娘だった。
何も知らないまま、飛び込んだジプシーの世界。
深く考えずに、エモーションで行動してしまう自分の性格に、
自分自身が振り回されるのは良くあることだが、
それはわたしにとって人生を変える出会いとなった。

ジプシー音楽、それまで知らなかった生きた音楽。
楽譜やセオリーなんて必要無い。
ぼろぼろの楽器にむちゃくちゃなリズム、彼らは感情のままに演奏し、歌う。
壮大な旅と時として奪われた自由、それでも生き抜いた強い精神と自由を求める心。
親から子へと受け継がれてきた長い歴史が奏でる魂の音楽。

人は、言葉が通じなくても心を感じることはできる。
どんなに有名になっても、昔と変わらず、村で暮らす音楽家たちに、
わたしは「ジプシーの心」とは何かを教わった。

タラフのメンバーは、毎年多くの海外ツアーをこなし、
一般のルーマニア人よりもたくさんのお金を稼いでいるにもかかわらず、
彼らの暮らしぶりは昔とさほど変わらない。
稼いだのほとんどをお金を貧しいジプシーの仲間にあげてしまうからだ。
バンド名の「タラフ・ドゥ・ハイドゥークス」とは義賊音楽団、
貴族から金品を奪い、貧しい民衆に分け与える正義の盗賊音楽団という意味だ。

「お金はある人が出せばいい。大切なのは、その時心がどうしたいかだ。」
とメンバーの1人がつたない英語でわたしに言った。
それが、彼らの心であり、美学であり、生き方なのだ。



*html5に対応しているブラウザ(SafariもしくはChrome)にて音楽をお聞き頂けます。

クレジャニ村で暮らすタラフのバイオリニスト、
カリウが家に友人、マリンを呼んでセッションしてくれた。
「独裁者のバラード」
20年前まで独裁政治を行っていたチャウシェスクについての歌で、
ジプシー映画、「ラッチョ・ドローム」にも収録されている曲だが、歌詞が全然違う。
即興で歌っているらしい。
マリンはタラフのメンバーではないが、独特の雰囲気と演奏は素晴らしかった。

クレジャニ村には、楽士通りという名前の通りがある。
昔は多くのジプシーの音楽家達がその通りに暮らしていた。
今では、オーディオやテレビが普及して楽士の仕事はめっきり減ってしまい、
タラフのメンバー以外に演奏する機会はほとんどない。
このようにして消えて行くカルチャーに寂しさを感じつつも、
目の前で彼ら演奏を聞けた感動は一生忘れない。

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