
自由な心
2008年に初めてルーマニアのジプシーを訪ねてから、
数回に渡ってジプシーの村を旅した。
どれも忘れることの出来ない旅だ。
思い出すと何とも言えないあの自由な空気感が恋しくなる。
決して裕福でも便利でもなく、時には清潔とは言い難いけれども、
そこにいる時は、そんなこと、どうでもいいと思える。
今、この瞬間にここで生きている自分に、ただただ満足するのだ。
きっとジプシーの自由な心が、わたしにも伝染するのだろう。
ある日系企業で働いているルーマニア人に言われた。
「あそこにいるジプシーの少年の顔を見てごらんなさい。
彼は、靴も履いていないし、明日ご飯が食べられるかも分からない。
でも本当に素敵な笑顔。
将来のことやお金のことを深刻に考えすぎている日本人は、ジプシーを見習うべきよ。」
そう、ジプシーは過去に捕われず、未来の心配もしない。「今」を精一杯生きている。
大声で笑い、泣き、喜び、怒り、自分の「今」感情に素直に生きている。
次の瞬間は常に新しい。
それこそが、自由の精神だと思う。
旅と子ども
わたしは、長期で旅をする時は、自分の子どもも一緒に連れて行く。
初めて連れて行った時は、まだ2歳。今から思えば大変なことも多かったけれども、
かけがえのない時間だ。
日本人どころか、外部の人が立ち入ることなどめったにないジプシーの村。
カメラを持って訪れると、わたしは、1人の日本人フォトグラファー。
しかし、幼い子どもを連れて行くと、1人の母親としても受け入れてもらえる。
ジプシーは子沢山だ。彼らの周りでは、いつもたくさんの子どもたちが遊んでいる。
そんな中で、わたしの子どもはジプシーの子ども達と外で遊び、わたしはジプシーの
女性達とご飯を作ったり、洗濯をしたり、散歩をしながら写真を撮る。
言葉がほとんど分からなくても夜中に旦那が帰ってこない嘆き節を聞いたり、
日本で仕事をしているわたしの旦那の心配をしてくれたり、母親同士の心は通じ合える。
異邦人の運命
わたしはジプシーの中に何とも言えない美しさを感じているけれども、
現実的に彼らを取り巻く状況は、決して良いとは言い難い。
多くのジプシーは貧しく、字が読めず、感情にストレートに行動するがあまりに、
理性と教養、そして富を美徳とする主流社会からは、受け入れ難い存在となってしまう。
ここ数年、ルーマニアのジプシーがEUの西側諸国に移住し、
彼らの暮らしぶりが問題視されることもしばしばだ。
ジプシーは常に社会との狭間で暮らして来た。彼らは主流社会と思想や生活様式が違う。
ジプシーが旅を初めてから約1000年。
その間に異邦人である彼らは、ワラキア公国(現ルーマニア)の奴隷にされたり、
ナチスにユダヤ人同様に虐殺された歴史がある。
ルーマニアでもたった、15年前まで、
多くのジプシーの居住区が焼き討ちにあったりしていたのだ。
自らの国を持たないジプシーの独自の掟や伝統は、旅した先々で行き違いを生み、
放浪の果てに国境沿いの山の中や谷など、人里離れた場所で生活する人も多かった。
本当は誰も悪くない
そんなジプシーの中にいると、まるで世界を裏側から見ているような気分になる。
ジプシーの人々の生き方が、今の社会で受け入れられない部分も多くあるのは、
事実かもしれない。
しかし、それは「違う」というだけで「間違い」ということではないと思う。
ある貧しいジプシーの居住区でのこと。
帰国前日のその日、わたしは手持ちのお金かもうほとんど無かった。
わたし達を車で連れて来たジプシーは酔っぱらってどこかへ行ってしまった。
2歳の息子と2人、どうやってこのへんぴな場所から、
空港の近くのホテルまで行こうか考えていた。
すると、周りのジプシーは当たり前のようにお金出し合ってタクシーに乗せてくれた。
それは、彼らの何日分かの生活費だ。
それをまるでリンゴを1切れくれるかのように、何のためらいもなく、
あまりにさりげなく、当然のように分け与えてくれた。
そしてその時、彼らにとってお金とは、
パンやリンゴとなんら変わらないということに気づいた。
社会のルールは時代や場所によって変化をする。
大義名分のもとにたくさん人を殺して英雄になる人もいれば、
肌を出しているだけで罪になる女性もいる
。
大奥があたりまえの時代もあれば、罪になる時代もある。
何が正しくて何が間違っているのか…。
善悪の概念は自分が生きて来た既成社会によってつくられたものなのだ。
影の中の光
世界には光と影がある。
うっかりすると光ばかりを見てしまうけれども、社会的に「影」とされていたり、
良く思われていない人々の中にも時と場所を超えれば、
きっと汚れない「光」があるんじゃないかと思う。
今まで出会ったことのなかった光。
それは、驚くほど力強かったり、切ないほど儚かったり。
そんな光に出会う度に世界の広さと奥深さを感じて、生きるエネルギーをもらう。
旅の最中や日々の生活にも光と影があるけれど、影の中にも大切な光が宿っている。
生きることの素晴らしさは、旅とジプシーが教えてくれた。
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